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  3. 新潟市「納とく翁の納豆紀行」

信濃川の川端から萬代橋を眺めています。河口から二番目のこの橋は国の重要文化財となっており、新潟内の信濃川に架橋された初めての橋として明治に建設されたものです。

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橋の無かった元禄二年(1689)に奥の細道の途中、新潟を通過した俳聖芭蕉は、当時盛んだった新潟と長岡を結ぶ「長岡船道」で、長岡まで船で上がったのかもしれません。「明日は七夕だと思うと、普段とは少し違う夜のような気がする」と、

を詠んでいます。文月(陰暦七月、陽暦八月)のきらめく信濃川の川面を眺めながら旅をしたのではないでしょうか。

私がここ新潟にいるのは、納豆を追いかけているうちにたどり着いてしまったからであります。
少し順を追ってお話しましょう。

以前、糸ひき納豆と同じ大豆を麹菌で発酵させて作る大徳寺納豆のお話を伺うため京都を訪問いたしました。長い歴史を持つ発酵食品は、体に良いことが分かるからこそ続いていることを「納とく」したのでありますが、その折、「健康の源になる発酵食品」を提供する食堂があるらしいと小耳にはさんだのであります。
是非伺いたいと思ったのですが、その時都合がつかず、日を改めて訪問させていただいたのであります。

 そのお店「発酵食堂カモシカ」、はJR嵯峨嵐山駅の北口から徒歩一分のところにあるかわいらしいお店であります。取材の為、時分どきを外して伺ったのですが、二組ほどお客様がいらっしゃいました。

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 お店を主宰する関 恵(せきめぐみ)さんにいろいろお話を伺うことが出来ました。「命は命で元気になる。日本の伝統である発酵の素晴らしさを世界に発信したい」と語る三十代の関さんは、この「発酵」の事業化で2015年の「第3回京都女性企業家賞」を受賞された「発酵いのち」の方です。

 店名の「カモシカ」は漢字の「醸す」(かもす)から付けたとのことですので、そののめり込み具合の一方ならぬことも分かります。
早速「本日の発酵8種定食」を頂くことにし、品書きを拝見したところ、昼間ではありますが、私の身体がささやきました。折角の発酵食品の品々が勢ぞろいしていているのに御酒が無くて如何なものかと。関さんの「お酒も発酵食品なのでとてもうれしいことです」もやさしく響いたのでありました。

定食の品々は、「豆腐の自家製梅ソース載せ」、「豆腐の自家製味噌載せ」、「鯖のへしこ」、「魚醤(いしる)のピリ辛こんにゃく」、「燻製卵の自家製柚子胡椒載せ」、「燻製卵のふぐの子糠漬け載せ」、「発酵調味料で漬けた地野菜のピクルス」、「お揚げのカモシカ特製麹納豆あんかけ」の八種類でした。そして汁物は、京の白味噌の味噌椀。食後に供されるお茶は、徳島に伝わる乳酸発酵させた阿波晩茶(普通のお茶より遅く収穫することから「晩」と付いているそうです)、と徹底した発酵食品の数々でした。

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 因みにお酒のために出された小鉢は、「豆腐の味噌漬け」と沖縄の「豆腐よう」とこれまた発酵食品。

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 近くに新しく開いた「カモシカのお菓子」発酵スイーツ専門店もご案内ただきました。

その後、気持ちよくお腹におさまった発酵食品の数々と、お酒の快い余韻を楽しみながらぶらぶら歩き、渡月橋から桂川の風を頬に受けていたのでありました。

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 カモシカ食堂で頂いた「麹納豆」は、「カモシカ特製」とありましたように糸ひき納豆に麹菌を工夫して作り上げたものでした。
身体に良いものをささやいてくれる力をつけることが、健康につながるのだとつくづく感じている私であります。そしてそれを大きく助けしてくれる食品の一つに、発酵食品があるように思うのです。

京都での話を若い友人に話していたところ、「子供の頃は苦手だったが、最近になってやたらに食べたくなる『こうじ納豆』が、昔から新潟にある」というではありませんか。
それを聞いて確かめないわけにはいきません。

江戸時代、日本海側の丹後の宮津や越後の新潟は、それぞれ北前船で賑わった港で、船から天橋立を横目に船が行き来していたことでしょう。私は、天橋立を眺めて、京都から新潟に来たのであります。

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新潟でお邪魔したのは、江戸時代後半の安政二年(1855年)から、信濃川や阿賀野川で獲れる鮭などの塩干物を商ってきた加島屋さんです。
私の友人が教えてくれた、このお店で扱っている『味付こうじ納豆』のお話を伺いに参ったのであります。
 お約束の時間より少し早めに新潟に着きましたので、昼食を本店二階の「茶屋長作」にて頂くことにしました。「鮭の親子丼」であります。ほぐした鮭とイクラをたっぷりと盛り、刻み海苔、これもまたたっぷり載せた丼で、良い塩加減の鮭とイクラのなんともたまらない丼でした。
 お相手いただいたのは、営業本部で広報を担当されている時田副部長。ご挨拶してすぐ、「鮭の親子丼」の塩加減の良かったことをお伝えすると、時田さんご自身も、長いこと鮭の加工に携わっていたとのことで、厳しい熟練者たちによる鮭の加工がされていることを説明頂きました。
 
 加島屋さんが販売している「味付けこうじ納豆」は、糸ひき納豆にリキュールと麹菌を入れて、さらに二カ月ほど熟成発酵させるそうです。確かに開封するとアルコールの甘い香りがほのかにしますので、普通のものではなくこうじ納豆の為の蒸留酒なのかもしれません。

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 一つの箱に三角形の包が二つ入っています。色からして味噌のようにも見えますが、実際に口にすると、味噌とも糸ひき納豆とも全く異なります。
大豆のかたちがそれ残り、糸ひき納豆よりさらに粘りが強く、口当たりも何とも優しいのです。

同梱されている栞には、「味は少し強めに着けてあるので、少量の大根おろし、刻み葱、山葵、辛子などの香辛料を添えるとさらにおいしくなる」とあります。私の友人は、もっぱら大根おろしを混ぜて食べているとのことでした。
確かに糸ひき納豆とは違い塩味がありますので、醤油などは入れずに、そのままご飯の上に載せて食べてみるとご飯が進みます。
少しずつ箸の先でつまみながら口にするとお酒がとまりません。

昔は、このこうじ納豆を製造販売しているお店も何軒かあったそうなのですが、手間がかかる割には、価格を押さえなくてはならないとのことで、今は製造販売それぞれ一軒だけになってしまったそうです。
加島屋さんが販売を止めてしまったら、昔からある残しておきたい発酵食品がなくなってしまう心配があります。
自然環境が大きく左右する熟成ですので、出荷前の検査時にアルコール分が残っていることもあり、その場合は、さらに低温で熟成させるそうです。「お子様にも食べていただきたいのと、自分たちが美味しいと感じたものを商っていきたい」と言われた時田さんの言葉が印象的で、加島屋さんの矜持を「納とく」したのであります。

納豆マップキャラクター 納とく翁

身体に良いからこそ残っている食べ物が、
まだまだありそうだと、
広がる信濃川の川下を眺めながら
つくづく思ったのであります。

納とく翁 記