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納豆健康学セミナー

東京都文京区 筑波大学文京キャンパスにて
「第15回納豆健康学セミナー」を開催

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2019年3月18日、東京都文京区の筑波大学文京キャンパスにて「第15回納豆健康学セミナー」を開催しました。私たちにとって身近な食品である納豆がなぜ体に良いのか、いかにして日本人に愛されてきたのかを、人文学的見地から石塚修・筑波大学教授に、そして発酵学、医学的見地から舘博・東京農業大学教授に講演していただきました。

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全国納豆協同組合連合会(以下:納豆連)では、日本の歴史と風土に培われた食品「納豆」の知られざる健康効果や魅力を、第一線の研究者の方々のお力を借りて学術的に解明しています。納豆とその周辺領域を研究する学問を「納豆健康学」と名付けセミナーを開催し、今回で15回目となります。
当日は多くの一般の方々やマスコミの方にご参加いただきました。

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開会にあたり、納豆連の野呂剛弘会長の代読で、長谷川健太郎常務理事が「昔から『納豆どきに医者いらず』と言われるほど、納豆は健康に良いことが広く知られていた。今や納豆は我が国の伝統食品の枠を超え、世界的にも注目される機能性食品「NATTO」として大きく注目を集めはじめている。納豆連では、納豆の知られざる健康効果や魅力を学術的に解明していくことが、今後の納豆業界と世界の人々の健康に寄与するものと考えている。納豆に関する研究が広く知られることで、納豆との結びつきを異なる角度から再認識でき、それが食卓に上るという楽しみが増えるのではないか」とあいさつしました。

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つづいて、納豆連のPR・研究部会の相沢勝也委員長から、「納豆は古くから日本人に食べ続けられてきた固有の伝統食品。骨形成を促すビタミンK2、アンチエイジングや大腸がんの抑制成分とされるポリアミンなど、納豆特有に含まれる成分がさまざまな機能を有していることが近年判明した。このセミナーで、新たに見い出された納豆の機能性を一緒に学ぶことができれば」と話しました。

各講師による発表は以下の通りです。

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東京農業大学応用生物科学部の舘博教授は、「納豆から糖尿病予防の機能成分であるペプチドを発見」と題し、納豆の新たな健康効果について発表されました。

世界的に問題とされている生活習慣病である糖尿病。舘先生によると、「糖尿病にはインスリン投与が必要な1型とインスリンの効果的活用が困難となる2型がある。多くの糖尿病患者は2型で、運動不足や肥満などが原因となる場合が多い」そうです。

この2型糖尿病の治療薬としてジペプチジルペプチダーゼ4(以下DPP4)阻害薬が開発され、現在、新たな治療薬として定着しているそうですが、DPP4とはいったいどういった成分なのでしょうか。
舘先生は、「DPP4はペプチドを分解する酵素ですが、2型糖尿病患者はその活性が高くなってインスリン分泌促進作用のあるホルモンを分解してしまい、結果的にインスリンが出にくくなる。DPP4阻害薬は、DPP4のホルモンの分解を阻害することにより、インスリンの分泌を促進するという働きがある」と説明されました。そして、この度、舘先生の研究により、納豆が比較的強いDPP4阻害活性を持つことが明らかになりました。

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舘先生はもともと麹菌の研究を専門とされ、「麹菌DPP4」がヒトのDPP4と同様の働きをすることを見出し、醤油や味噌の麹菌DPP4の研究を行ってきました。しかし、「醤油や味噌はどうしても食塩の影響が大きく、不純物が混じっていると欲しい結果を得ることができなかった。そこで、納豆のDPP4について研究したところ、納豆の中にあるLys-LeuとLeu-Argという物質がDPP4阻害物質であると特定した」といいます。
舘先生は、複数社の納豆や、粒の大きさや納豆菌が異なる納豆など条件を変えて、さまざまなテストを実施。その結果、以下のことが明らかになったといいます。
●納豆のもつDPP4阻害物質は、消化耐性があるため経口投与も効果的である可能性が高い。
●さまざまな納豆メーカー、粒の大きさ、納豆菌を使用した納豆を比較したが、大きな差は見られなかった。
●納豆の熟成時間が長いほど、DPP4の阻害活性が活発に行われることが分かった。

また、舘先生は、「過去に石川篤志氏という方が『納豆は食後血糖値の上昇抑制効果を有する』と発表されているが、今回の研究において、特定したDPP4阻害物質がその効果の一端を担っている可能性があることが分かった」と述べました。

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最後に舘先生は、「私たちの体は脳がコントロールしていて、“おいしさ”も脳の刺激に役立っている。DPP4阻害物質ももちろんだが、何より“おいしくいただける納豆”であることが最も重要だと思う」と話し、講演を終えられました。

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続いて、筑波大学人文社会系の石塚修教授が、「長寿を祈った食文化としての納豆汁」と題し、人文学的見地から納豆に関する考察を発表されました。

石塚先生はまず、「納豆ごはん」の画像を出し、「納豆といえばご飯だが、実は最初から納豆はご飯の上に乗せていたわけではない」と話しました。それは、米は日本人にとって非常に貴重でなかなか手に入らない、重要な食物であったということを意味しています。

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「最近では糖質制限ダイエットなどでお米を食べない人が増えてきているが、米は日本の食文化の中心であり、稲作文化はアイデンティティ。神様の食事である神饌にも米が供えられているし、NHKの有名な朝ドラ『おしん』の中にも、一俵(60Kg)の米と引き換えに主人公の女の子が奉公に出されるというシーンがあったり、『お腹いっぱい米の飯が食べられるから』という理由で、命がけで雪の峠を越え、住み込みの働きに出る女性たちがたくさんいた」と紹介し、日本はいかに米に重きを置いてきたかを強調しました。

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また、儀式や祝い事を指す「ハレ」と日常生活を指す「ケ」の文化について触れ、「納豆は日常のケのものと思いきや、京都市京北町で正月に伝統的に食されている納豆餅からも分かるように、実はハレの日の食べ物だった。正月元日に宮中で行う『歯固め』という儀式にヒントを得て生まれた『花びら餅』というものがあるが、これに納豆餅が非常によく似ている。花びら餅も納豆餅も、正月に一家の課長がつくる特別な食べ物だった」といい、納豆餅がハレの日の食べ物としての意味合いが強いことを説明しました。

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さらに石塚先生は、ハレの日の食べ物の代表である「おせち料理」、その中でも「お雑煮」に着目され、「江戸時代に書かれた故実書の『貞丈雑記』を読むと、お雑煮はもともと身体を温めて新年を迎えるものだったと読み取れる。納豆汁ももしかすると同じ働きをしていたのではないか。お米が手に入らなかったときは、納豆汁を飲んでいた。また、江戸煩いと言われた『かっけ』にかかってしまったときは、ぬか汁を食べると治ると言われていたそうだ。食べることによって身を養う、身体を良くするために食べていた」と食の重要性を説きました。

最後に、「お腹いっぱいご飯を頂けること、体に良い納豆がこれだけ安く手に入るということは当たり前のことではない。その幸せをぜひ噛みしめて」と締めくくりました。

3時間以上にわたって行われた納豆健康学セミナーですが、参加者の皆さんから、「大好きで毎日食べている納豆について学ぶことができた」、「非常に勉強になった」、「まるで落語を聞いているかのように面白い語り口で、楽しかった」といった声をいただき、大変うれしく思います。

今後も納豆連では、「納豆健康学セミナー」を通じて、さまざまな分野の研究者による最新の研究結果をお届けし、知られざる納豆の魅力を伝えていきたいと思っております。